手をつなぎ微笑んで照れたようにうつむくシアワセの象徴を見ながらおもう。
オトナになりきれずとまどいながらそれでも目を離すことはできなくて。
街の喧騒は蜃気楼みたいに揺れながらそれは簡単にぼくを騙して笑うんだろう。
もちろん対処の術をぼくは知らない。
経験則によってのみ成長する不器用なぼくは
きっとこのままきみの傍でひとつずつ新しい季節を数えながら少しずつオトナになってく。
きみが鮮やかに笑うたびそのスピードに追いつけない不安に苛まれ続けるぼくだけど。
「信史、」
ごく容易に誘発された感情は理性の制御より早くこの身を飛び出してきみへと消える。
ぼくの中だけにこのおもいを閉じ込められるようになれば
誰かとかけひきめいた恋だってできるっていうの?
このぼくが誰かを騙しながら、誰かを傷つけながら、平気な顔で笑えたりするの?
きみとの距離はそれはぼくをいらだたせるけれど、
それだけのリスクを背負って背伸びをしたいとおもうのはどうしてなんだろう。
きみを欺いてぼくが苦しまないわけがないのに。
「ん、」
振り返る瞳にすべてを落としてやっぱりぼくはなにも言えなくなる。
少し長すぎる袖のスプリングコートはこっそりきみとここで手をつなぐための秘密の手段。
きみにかかればわずらわしいはずのすべてが新しい可能性に変わる。
それはたぶんぼくにとっても新しい可能性だから。
それでもやっぱり素直な感情を邪魔するオトナになりきれない自分。
すべてが曖昧に過ぎる季節を抜け出して、
ぼくのすべてできみに笑いかけられるようになるのはいったいいつなんだろう?
その日まできみはぼくをその先で待っててくれるかな。
ぼくのまだ見ることのできない、その先の場所で。
「なによ、どしたの?」
「……なんでもない、」
あーあ。きっとまた信史の期待っていうかさ、
そんなオレだってわかるようなおもいを裏切っちゃったのかな。
頻度とか強さなんかでぼくのすべては今のところ決まっちゃうからさ。情けない話だけど。
「こんなところで手なんかつないで歩いてなんかやらないから」
「……なんも言ってないじゃん」
「飯島の今したいことぐらいお見とおしなんですよ」
「……あぁ、そうですか!」
なんだかすごく悔しいのに笑ってしまう。
ここでただきみと手をつなぐ、そんな簡単なことさえできないぼくなのに。
それならばいっそぼくにとってもっと簡単で、もっと今したいことを。
「……それってずるいと思うんですけど、」
「よく言うよ!」
スクランブル交差点の信号待ちに転化したコドモらしさの象徴。
きみを少しだけ揺らしたキスは
もう数えきれないふたりの記憶の中のほんの些細なひとつでしかないかもしれないけれど、
それならばきっとぼくらの隙間をまた埋めるはず。
ぼくらがいつかの未来いつでも手をつないで歩く距離でいられるように。
ぼくの歩く速さでふと立ち止まって視線を移せばそこにきみが笑っているように。
そんなふうに望むばかりのぼくはそんなにもきみにとってずるい存在だっていうの?
ねぇ、答えてよ。今したいぼくをお見とおしのきみならばたまには今すぐに。
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